
戦場のマリオネット
第6章 乙女は騎士の剣を掲げて
イリナは、一から訓練して戦士に事足りる実力を取り戻すと意気込んでいる。私の方は、前にも増して夢見が悪くなり、精神的な損傷が身体に及びかけていた。情けなくて彼女にも打ち明けなかったのに、リディは察していたのか、私を軍事から外した。
コスモシザの貴族達の私への怨嗟は、根深い。リディへの不審を危惧した私は補佐の任命を辞退したが、前王達の後押しもあり、結局、その重任を引き受けた。
いつも終わらせることばかり考えていた。血と憎しみに埋もれていく、感情の薄れていく自分自身が怖かった。この世に安楽などなかった。死に急ぐことは逃げに過ぎない、それをリディは私に伝えたかったのかも知れない。
今逃げても生きながらえても、どのみち重ねてきた罪は消えない。
それなら、ずっと心に仕舞っていた想いを、私はイリナに伝えることにした。
「イリナ」
私達は、白亜の女神の噴水前に来ていた。
陽光を弾き、きらきらと光を撒く水の流れを背にしたイリナが、振り向く。
「…………」
らしくないと思う。好意を口にすることが、こうも心臓が痛むまでに気もそぞろになるものだっただろうか。
