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戦場のマリオネット

第6章 乙女は騎士の剣を掲げて




「結婚して」



 いつも毅然と前を見据えているイリナ。オーキッドの血が濃いほど気性の強さが顕著になる翠の目が、心なしか揺れた。


「え……」

「私が相続することになった、アイビー家の土地と財産。元はイリナのものだったし、この国をよく知る君の方が、安心して管理を任せられる。それに君の父親に、私が幸せにする……って、啖呵切ってしまったから」

「そんな……でも、私は……」


 私は懐から出した小箱の蓋を開ける。

 コスモシザで採掘される白い石を填めたリングが、昼間の陽光を受けて艶めく。


「良い?」

「…………」


 イリナの片手をとって、左手薬指に嵌める。

 見かけより細い指だ。


「ぴったり……」

「リディに訊いた」

「許可、いただけたのね」

「王太后様にも言われてる。イリナをそんな身体にした責任は取れって。騎士団の後継者なら、その時が来たら、私達の見込んだ人間を指名すれば良いって」

「…………」



 微かに花達がそよいだ時、イリナの息を吸った気配がした。


「チェコラスを攻める前日、私、ラシュレに、終わったら聞いて欲しいことがあると言ったわね」


 私は頷く。

 満天の星空が眩しかった。この土地を漂う優しい風と、イリナへの愛おしさでどうにかなりそうだったあの深夜、彼女の想いを感じていた。


「アレットのこと、忘れて。リディ様より私を愛して。愛人じゃなく、パートナーとして。……私以外、見ないで」

「…………」

「コスモシザは貴族でも結婚の相手は自由だし、世継ぎを残すかどうかも、その家の当主の判断に委ねられている。その分、よそ見には寛容じゃないの。モテたって浮気出来ないんだから。それでも良いの?本当に、ラシュレは私で良いの?」

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