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戦場のマリオネット

第8章 救済を受けた姫君は喉を切り裂く【番外編】


 訓練場からすぐ近くの離れの一角、会議室に顔を揃えた隊員達の数人が、下を向いた。

 公爵家直属の軍の最高責任者、ジスラン・オーキッド──…つまり私の父が今しがた出した結論は、彼らを戦慄に至らしめた。
 貴族が罪人を罰すること、尋問に関わること。ここ数十年、それらは穢れた行為とされて、軍人も例に漏れない。ところが父は、その道徳をなおざりにして話を固めた。


「我が国は、隣国コスモシザを一刻も早く手に入れねばならない。それが主君、チェコラス公爵様のお望みだ。よって春先から夏にかけて、あの者どもは東洋との貿易、外交にかまける。首都の警備も手が薄れる今が好機だ。既に王城に隠者を送って、娘の勾引は首尾している。問題はイリナ・アイビーだが……」

「オーキッド伯爵」


 誰もが固唾を飲む音にも気を配る中、男が一人、挙手した。
 第一部隊の隊員だ。先代のチェコラス領主から公家に仕えてきた彼は、私と同世代の男達と比べても引けをとらず快活で、大柄だ。彼、ブリーズは昂然と腰を上げた。

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