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戦場のマリオネット

第8章 救済を受けた姫君は喉を切り裂く【番外編】


 消費の対象としてここにいたのは、あの善良な部下達に限らない。コスモシザでしか採取出来ない乳白色の石のピアスが左耳に残されたのも、私に遺恨を植えつけるため。アレットの私への好意も作為的なものだとすれば、ミリアムの方がまだ自由だ。誰も愛さないという選択が出来たのだから。私は、結果的に自分を見捨てた祖国への恨みも置き去りにして、妹への愛情だけで役目を全うしようとしている。
 無限の選択はイリナに委ねれば良い。私がブリーズや公爵夫人の提案をあしらったのは、彼女に希望を感じるからだ。国同士の生贄に使われた彼女か私、どちらかがまともな嚮後を辿れば、戦という不可視の魔物を見返せる。チェコラスは侵略を成し遂げる。オーキッド家という後ろ盾を奪回すれば、彼女こそ誰の支配下にもない軍人になって、この国の女らしからぬ将来を歩めるだろう。ミリアムと共に。


「彼女は、美人だよ」


 私はアレットの目尻を撫でて、そっと指で潤沢を押さえた。


「でも彼女が初恋の君に似ているだけで、好意の根拠にはならない」

「似ているのは、否定しないのね。ますます死んで欲しいのだけど」

「彼女と仲良くなれない?」

「家族仲良く暮らしても、幸せとは限らない。イリナだって王女が好きなんでしょう?こんな国に戻ってきたら、わけの分からない男に嫁がされるし、あの女か私、きっと跡継ぎを産まされる。それにお姉様がアイビー家の人間だとバレてしまうわ、あの女を消さないと」

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