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戦場のマリオネット

第4章 愛慾と宿怨の夜会




 署名の数は、他の隊員達や各部隊の集めてきた分を合わせると、私の想像を超えていた。

 それが分かったのは、更に二日後、軍会議で各部隊の成果を報告し合った時のことだ。駐屯地への強襲も順調だったようで、騎士団と王室直属の精鋭部隊を除いては、ほぼ壊滅状態に追い込めたらしい。

 チェコラス公爵の居城の広間には、父を始めとする軍の主要人物らが集まっていた。

 二十一年前にはチェコラスを返り討ちにしたというコスモシザに初めて敗色が見えてきたのは、イリナとリディの不在が大きかったようだ。殉教を選んだ市民達の中には、イリナの破瓜を知らされるなり、すみやかに偽絵を燃やした者もいた。隊員達の中には、逆らえばリディを晒し首にすると言って嘘をつき、従わせた者もいたという。


「ではコスモシザ城に攻め入るのは三日後、必ず我々の手に落とし、今度こそあの豊潤な土地を公爵様に持ち帰りましょう。王と王妃の身柄はチェコラス西のロウトゥ城へ移し、貴族や市民らには一ヶ月以内の洗礼を義務づける、これでどうでしょうか皆さん」

「異議はありません。攻城は、ラシュレ様。貴女の部隊で、問題ありませんか」

「構いませんが……」

「何か問題が?」

「いいえ。武力と署名を以てしても王が降伏しない場合、一つ、切り札も用意しておりますので」

「ほっほ。それは頼もしい。先ほども申し上げましたように、あちらは、今や援軍が送られてくることも考え難いです。オーキッド家の血を引く貴女ともあろう御方が不意を打たれることはないでしょうが、くれぐれもお怪我のないよう……」

「ご心配には及びません。お役目、光栄の至りと存じます」

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