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まこな★マギカ

第15章 第九ノニ章





なかばまこなから逃げるようして、20番テーブルに向かって歩いた。37番テーブルを通り過ぎて、3番テーブルに差し掛かろうとしていた時に両テーブルの合間の通路からタツヤがこっちの方に向かって歩いて来るのが見えた。丸いトレーを2、3枚脇に抱え、ワインクーラーを2つまとめていっぺんに片手で持っている。珍しくインカムまで身に付けている。独り言のようになにやらぶつぶつと言っているのだけれども、何を話しているのかはもちろん分からない。俺がホールで目覚めてから、あれから立て続けにシャンパンやブランデーの高級ボトルがおろされているのだ。忙しいのは当然だろう。タツヤのその姿を見てもそれは一目瞭然と言える。だから俺は素通りしようと思っていた。

ところがタツヤは俺に気が付くと足早に近づいてきた。「あ、ゆうきさん――」それから俺に向かって早口で言った。「20番テーブルに今からピンドン持っていきますんで――お願いしますね」

「ああ、わかったよ。今向かってるから」そうタツヤにこたえた時に、ふとある疑問への答えが頭をもたげた――まこながロマネをおろした理由だ。もしかしたら――いや、それはほとんど確信に近かった。彼女は俺を自分の席に引き留めておきたかった、だけなのではないか。極めて単純な理由だ。だから逆に思い付かなかったのだ。彼女なら、わざわざそんな事をしなくてもいくらでも方法はあるはずなのに――それなのにその手段を選ばずにわざわざ数百万円もするボトルをおろして、俺を席に引き留めておこうとした。あまりにも馬鹿げている――いや、だからこそ俺はそれに気付けなかったのではないか。

でも、だとしたら、そうまでして他の席に行かせたくない理由でもあるのだろうか。

――はっ、まさか……。

そこで20番テーブルへとさらに急いだ。さやかの事が非常に心配になっていたからだ。つまりまこなは、俺を、さやかの席に行かせたく無かったのではないか。今までの言動からしても、その可能性なら充分に考えられる。そうだとしたら、さやかの身が危ない――いや、でも、彼女が、まこながそんな事をするはずがない、そうも思いつつ、俺は不安を拭えずにいた。さっきカナメが言っていた事もある。東通りで救急車に運ばれた黒人達は、まこなの仕業に決まっているのだ――ただやはり、それさえも本当に彼女の仕業なのだろうか、とそう思っていた。


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