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まこな★マギカ

第7章 第五ノ一章




アメリカのロサンゼルスにある有名なナイトクラブを模して造られたパリナのホールは、この街でも随一と言われる程の広さを誇っていた。もちろん、それはホールの広さだけでなく接客席の数もそれに伴ってトップクラスと言えた。ちなみにその数は普段の営業日で40卓を数え、さらにイベントの日になるとその倍近くまで増えるのだ。

ホールに入って正面の壁際には、DJブースがどっしりと据えられている。それは客席よりも二メートル程高い位置にある為ひときわ高い存在感を放っていた。それを三方向からとり囲むようにして接客席が縦横無尽に並んでいる――客席は所々パーテーションで仕切られていて、指名客が複数来ても良いように複雑な形をしていた。

そのパーテーションとソファーで出来たまるで巨大な迷路のようなホールを8番テーブルに向かって歩いた。8番テーブルはキャッシャーからさ程遠くない場所にある。手前の方の右側の席だ。

テーブルに着くと、ソファーには既に杏子とカナメが並んで座っていた。その目の前のテーブルの上には、隙間がないぐらいぎっしりとフードが並んでいる。カナメが前もって杏子に頼んでおいてくれたのだろう。

フリーハンドで酒を飲んでいたカナメが俺に気が付くと、すぐさま片手でグラスを持って俺に声をかけた。「あれ、ゆうきさ〜ん。遅かったじゃないっすか〜」

「いや、わりいわりい。ちょっとキャッシャーで恭介さんと喋っててよ」

「え〜そんな〜俺のこと放っておいて恭介さんと喋ってたんすか〜、ずっと〜?」

「いやいや、ずっとじゃねぇだろ、全然……」

おまえの周りの時間は、いったいどんな速さで流れてんだよ。そう思っていると「ゆうき、こんなバカほっとけよ」と隣に座っていた杏子が口を開いた。

「あ、杏子、久しぶり」杏子に向かって軽く挨拶をしてから、フードに囲まれたグラスを取り上げた。「俺も一杯貰ってもいいかな?」

杏子がまえに来たのは3週間程前だ。マミと連絡が取れなくなった直後ぐらいだ。だから会うのは久しぶりだった。

「いいに決まってんだろ」杏子はこたえると、心配そうな表情を浮かべた。「それよりゆうき、カナメに聞いたぜ。大丈夫なのかよ?」

「ああ。なんか心配かけたみたいだけど、もう大丈夫だから――ありがとな」

杏子は安心したという表情を見せた。「そっか、なら早く座れよ」


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