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まこな★マギカ

第7章 第五ノ一章


「え、ああ、じゃあ、お隣り失礼します」そう言って従業員の後ろを回り、さやかの隣に着くと俺は控えめにソファーに腰をおろした。

それからさやかに訊ねた。「あの、それでさやかさん、そちらの方はなんとおっしゃるんですか?」隣に座っている女は、間違いなく今日が初対面だったからだ。

「もう、敬語とか使うなよ、バカゆうき」と少々ふくれっ面をするさやか。それから手のひらの先を隣の女に向けた。「あ、こちらは和子さん――わたしのお友達」

「初めまして、ゆうきです」俺は胸のポケットから名刺入れを取り出すと、その中の一枚を抜いて和子に渡した。

「こちらこそ。初めまして、和子です」そう言って彼女は軽く会釈をすると「あなたが、ゆうきちゃんね――さやかが言ってた通りかわいい顔してるわね」と言いながら両手で俺の名刺を受け取った。

「え? いやぁ、かわいいだなんて。全然そんな事ないっすよ――」と俺は少々大げさに照れて見せた。「でも、かわいがってもらえると非常に助かります」

「そんなの当たり前じゃない。だってさやかの担当君なんだもの――邪険に扱ったら怒られちゃうわ」

それを聞いてさやかが和子に向かって言った。「え、和子さん、あたし怒らないけど、別に」

そんなさやかに俺は言う。「待て待て待て――ってか、怒れよ! なんだったらひくほど怒るべきだろ、そこは!」

「え、あ、じゃあ、考えとくわ」とさやかは相変わらず笑いながらこたえた。

そんなやり取りをしているあいだ、和子なる女をまじまじと見ていた。なにせ初めて来たにも関わらずVIPルームに座っているのだ。そのくせ、一見、身なりはその辺にいる女とたいして変わらない。いや、どちらかと言えば、むしろ場違いと言ったほうが正しいのかもしれない。服装はこれと言って特長もなく――にわかに教壇に立つ女教師を連想させなくもない――さらに大きめの眼鏡をかけていて、化粧もさやかと比べると断然薄い。髪もとりわけいじっていると言う風でもなかった。ただし、さり気なく身に着けている眼鏡やアクセサリー、それにバッグを見ると、どれも高価なものだと言うのが一目でわかる――それに関しては疎い俺でも、だ。

それに、何よりも、俺には和子の顔がどこか見覚えのある様な気がしてならなかった。

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