
仔犬のすてっぷ
第3章 風海 蒼空 (かざみ そら)
「……ゆうちゃん?お〜い!」
・・・はっ!
いけない…仕事中なのに、考え事してた。
「どうしたの?何か、あったん?」
目の前で首を傾げながらこちらを見ているのは、同僚の
吉垣 淡海(よしがき おおみ)
僕よりひとつ歳下の23歳。
少しポッチャリしているが、とても話がしやすい、気さくな子だ。
面倒見がとても良く、そしてポッチャリ体型からか、この年にして店の店員達のお母さん的存在になっている。
「あ、い、いや、別に…昨夜、近所で犬が騒いでて、うるさくてちょっと眠れなかったからさぁ……」
昨夜の事は誰にも話してない。
蒼空の話が全部ホントなら、今後彼はもしかすると“ナイスミドル”の追手連中に追われる事になるかもしれない。
本人は大丈夫だって言ってるけど……最悪、彼の身柄は何処かに預かってもらわなきゃならなくなる。
そんな危険も含んだ人間を匿っている事が周りに知れたら、どこで、なにが、どう転がり出すか分からない。
しかし……
“秘密”…かぁ〜…
不謹慎ながら、甘い響きだ・・・
「なんか…寝不足の割に、楽しそうなカンジ、してるんやけど……」
『バラさん、こないだ大須で新しいPC(パソコン)ゲーム、買ったんやろ?寝不足なのは、そのせい違う?』
すぐ側にいるにもかかわらず、インカムレシーバーを通して話しかけて来たのは、先輩の
安田 一(やすだ はじめ)
アルバイト時代に僕に仕事のイロハを叩き込んでくれた先輩だが、実はひとつ歳下。
僕の事を年上としてちゃんと扱ってくれる数少ない人物なのだけど、若干お節介なところと、人を誂って(からかって)楽しむ悪い癖があるのが難点だ。
「……なぜ、それを……?」
『こないだたまたま大須に行った時、見掛けてさぁ。後追跡(つけ)て、何を買うのか見ちゃったし』
あう……なんてこったい。
あまり、女性陣に知られたく無い情報を、よりによって、インカム通して話さなくても……(大汗)
