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仔犬のすてっぷ

第18章 来訪者たち



「林原は風海と彼女を連れて裏から出ろ」

「……え?!あの〜…一体、何が・・・?」


「桜明の使いが来た、と言えば逃げる理由になるだろう?」


お、おうめい・・・

桜明美南・・・・・。


蒼空を狙ってた、彼の言う“クソマダム”だ。

そいつの使いが来た、となれば・・・
いい事なんて、起きる訳がない。




「なんすかぁ?オーナー?」


そこへ、狙われている張本人が、めちゃめちゃ脱力しきった状態で、ドアを開けて現れた。


「あの桜明の使いを名乗る女性が現れたわ。貴方はその二人を連れて、身を隠しなさい。隠れ家は〈ジャングル・バー〉分かった?」

「え〜〜〜〜〜っ?!よりによって、アソコッスかぁ??
そんなん、俺等でタコ殴りにしちゃえば・・・」


「つべこべ言わずに、行け!蒼空っ!!」


森川店長が怒鳴りつける。
彼が怒鳴るところを見るのは、以前助野主任が手違いで店のセキュリティシステムをダウンさせてしまった時以来だった。

・・・つまり、その位ただ事では無い訳で。



「へ〜い……あ〜…気が進まねぇ〜…」

蒼空は、そんな事は思っていないようで


「俺は逃げるなんて性に合わないんだよなぁ…やるなら徹底的にやり合って相手を屈服させた方が・・・」



ゴンッ!!

店長から蒼空まで…3歩分くらい離れていた……はずなんだけど。
一瞬で間を詰めた森川店長のゲンコツが蒼空の脳天に叩き込まれた。
たまらず蒼空がよろっっとグラつく。


「……簡単にやり合うとか、タコ殴りにしようとか言うな!
うかつに他人の襟を掴んだだけでも、それを元に簡単に罪を上乗せして相手を陥れられる理不尽な世の中で、自分から手を出すなんて愚の骨頂だ!
オマエも男なら、戦う場所は選べ!闘う理由も自分中心にするな!
どうあっても避けられない時…護るべきものがある時は体を張って守れ!命を賭けて闘え!
今がその時じゃない事ぐらい、オマエになら判るはずだろう?!」


何時にない森川店長の説教と、ゲンコツの重たい一撃に呆気に取られた蒼空だったけど


「……ああ。分かった。そうだな・・・」


蒼空の顔が、完全にキリッとした顔になって


「俺は、俺が今、1番護りたいもんを守るよ」


そう言うと、僕の顔を真顔で見た。





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