
仔犬のすてっぷ
第27章 仔犬達のラストワルツ 蒼空VSトーマス
そこにいたのはオーナーだけではない。
戦いを終えたカリームともう二人、若い女性が一人と中年の眼鏡の女性……。
「・・・誰ですか?その人達……」
この場に現われた、という事は何か関わりがある人物なのかもしれないのだが、蒼空は彼女達に見覚えは無かった。
「……この人達の事は後で説明するわ。それよりも……」
チャイナドレスにハイヒールという出で立ちとは思えない速さで走り出した幸は、真っ直ぐに倒れている森川へ駆け寄った。
「モリリ〜ぃン…だ、大丈夫?!しっかりしてぇ〜…」
「……だ、だい…じょお…ぶ。し、痺れてる…だ、だけ…だから」
がばっ!と森川を引き起こした幸は、がばっ☆と彼に抱きついた。
そのままぎゅ〜〜…っとさらに熱く強く抱きしめる彼女の胸に深く顔が埋まってしまい、彼は息が出来なくなってしまう。
「死んじゃ、やだあぁ〜…」
「し……しぬむ…からむむ、……や、め……むぐぅ……」
ボーイズ・バーのやり手のワンマンオーナー歩美から、すっかり素の女性、幸に戻っている姿を見るのは心がほっこりするのだが………
彼女の豊かな胸に埋もれて呼吸が出来ず、助けを求める森川の手が空を向いてひきひきっと痙攣する様を見ては放って置くわけにもいかない。
蒼空は、彼女の肩を軽く叩き、愛しの人のピンチを伝えた。
「………さて、と・・・後残ってるのはアンタだけなんだが……やっぱ、やるのか?」
ぷはあっ★と深い深呼吸する森川、気絶しているアキラを起こして安否の確認をするカリーム、さらにぐったりと頭をうなだれたまま拘束され、上機嫌な外人女性のバウンティハンターに踏み付けられている霧夜を順番に観た後、蒼空はズボンのポケットに両手を突っ込んで立っているトーマスの方を見た。
「……ま、一応受けた依頼はちゃんと果たさなきゃならんし、やらない選択肢は無いだろう」
「依頼ったって、依頼主は捕まってんだし……そもそもアンタの目的は霧夜の確保じゃないのか?」
……ふっ・・・と小さく息を吐きながら笑ったトーマスは、蒼空を見てからもう一度ふうっ・・・と溜め息をついた。
「子供がオジサンの仕事の心配、してんじやねえよ」
