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仔犬のすてっぷ

第5章 他人と自分と




 『…で、小学教師による、生徒へのわいせつ行為が明らかになり……』



「…ったく。先生が、生徒にわいせつ行為とかよぉ……何やってんだろ〜なぁ。
しかも、相手は小学生だろぉ?正気じゃ無いぜ」


 テレビで流れる朝のワイドショーを見ながら、蒼空がずずずっと、味噌汁を啜っている。


「ヒトとして、やっちゃあイカン事って、あるだろうに、よ?」

「……そうだね。僕も人として、やってはいけない事って、あると思う。」

 僕はシャケの塩焼きをほぐしてご飯に乗せながら、彼の意見に相槌を打った。


「だろ?ましてや相手はしょーがくせーだ。そんな事されたら、心に傷が残っちまうだろうにさ」

「マトモな意見を言っているキミに聞きたいんだけどさ?んぐ」

 僕はシャケが乗ったご飯を箸で口へ放りこみながら、言葉を返す。


「ここの…しゅうひ(修理)のドサマギで……んぐ。ヒトんちの合鍵作った奴も、なかなかだと思うけど……ずずずっ」

赤出汁。ネギと豆腐のバランスが良くて、今日のも中々の出来だ。


「……だろぉ?なかなか良いアイデアだったと、俺は思うぜ?」

そこまで話して、蒼空はたくあんをバリッとかじり、ご飯を口へ掻っ込んだ。


「…で、そうやって、安眠中の人間がいるベッドに潜り込む輩は、ヒトとして如何なものかと、思うんだけど…ずずっ」

 僕も同じく、たくあんをパリッと噛み、咀嚼しながら温かいお茶を飲んだ。


「惜しかったよなぁ…あと、五分位早かったら、可愛い寝顔が見られたかもしれないのに……起きてたなんて」

「たまたま早く目が覚めてね。なんか、嫌な予感がしたからさ……はい。」

 僕は蒼空に向かって手のひらを差し出した。

「はい?」

蒼空は、その僕の手のひらをじっと見つめると、


「……案外長生き出来そうだぜ?アンタ」

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