
仔犬のすてっぷ
第31章 激突する、LOVE IT
『・・・とにかくこれで離れてても会話出来るし、嬢ちゃんの見えてるモノも見えるようになった筈だ。
……本気で愛された訳じゃないから効果は長くは続かないだろうが……霧夜の相手する間は持つだろう。よろしく頼むぜ』
『・・・そういうことかよ……』
足を掴まれ宙ぶらりんになっている蒼空の言葉も聞こえてきた。
『だがよぉ……せめて一言俺に断ってから…』
『んな時間あるか!緊急事態なのには変わりは無いんだ。
……来るぜ!』
霧夜が、ジャケットの外ポケットから丁寧に折られた札を取り出した。いくら分あるかは分からないが、まとめているって事は切りの良い額なんだろう。
それをサラサラと灰に変えた霧夜はギロリとアキラの方を見て。
「 死 ね !」
懐へ手を伸ばし…投げナイフを取り出し……
『…なるほど。これなら……』
僕が見ているモノを見えるようになったトーマスは、それだけ言うとすぐに行動を開始した。
流石に今から霧夜にナイフを投げさせないようにするのは無理だけど。
……僕の考えた通りにトーマスが動く。
それもトーマスには伝わっているのか、それとも彼の判断なのか……。
揺らめきを残してトーマスが一瞬でアキラの前まで移動する。
そして、ゆっくり飛んでいる(ように見えているだけで、実は早いのだけど)ナイフを、しっかりキャッチした。
「何 !? 貴 様 …… 見 え て い る の か ?!」
今の僕に、は霧夜の言葉もスローに聞こえてしまう状態にあり……。
「こ れ で 貴 様 に 勝 ち 目 は な い ぞ ?」
動きと思考以外は同調していないトーマスの言葉もゆっくりに聞こえてしまう。
『嬢ちゃん…話しているところまで力を使うと、あっという間に力が尽きてしまうぜ?いくら回復してもらいながら出来るとはいえ、回復は体力と気力だけだ。 “愛の力” は、俺とアンタの間にはさっきのキスの分しか無いことを忘れないでくれよ?』
状況を理解している…というか、筒抜けになっているトーマスから早速ツッコミが入った。
ううっ……わ、解ってますよっ!
だけど、力を使うことに慣れていないからさじ加減が難しいんですっ!
