
仔犬のすてっぷ
第37章 仔犬のすてっぷ
こんな愚痴や、こちらの世界での不安を感じさせないやり口は流石というべきなんだろうけど・・・。
そんな事を考える余裕も、どんどん激化してくる戦いの中では無くなってしまうかもしれない。
それでも、向こうの親玉を倒してこの世界に平和を訪れさせないと、帰ることも気が引けてしまうし…。
なんだか・・・
僕等は何をしてるんだろうか?
「・・・疑問があるなら答えてやらなくはないぞ、優希…」
不意に、廃墟のビルの中に、聞き覚えのある声が響き渡った。
この声・・・。
「お前が感じている疑問やわだかまりなんて、俺の顔を見たら全部消し飛ぶだろうさ。
だが、そうなったら、お前も、お前の相棒も今のままじゃいられなくなるかもしれないぜ?
・・・それでも、俺の顔を見てみたいか?」
「…ちっ!敵か!?
ここはそんな簡単に来れる場所じゃ…周りじゃ警備してる奴らも…」
慌てて立ち上がる蒼空の姿を見たのか、笑い声を上げた声の主の足音らしきものがコツ、コツ、と暗闇の中から響いてくる。
「まあ、慌てるなよ。お前さんだって俺のことはよく知ってるはずだ。慌てる必要はないし、今はお前達をどうこうするつもりはない。
…ただ、そろそろ本当のことを知りたくなっている頃じゃないだろうかと思ったんでな。
こうしてわざわざ足を運んでやったのさ」
「・・・なんだ。敵のまとめ役自らの登場か?
随分サービス精神が残ってるじゃないか?」
一陣の風のようにふっ…と現れたトーマスが、僕達二人の前に現れて僕らをかばうような態勢を取っている。
久しぶりに、見る、真面目過ぎるトーマス…。
その顔は見えないけど、明らかに今までと様子が違っている。
相手は・・・誰?!
「そんな顔するなよおっさん…久しぶりのご対面なんだぜ?もう少しいつものようなユーモアがあってもバチは当たんないだろうぜ?」
「・・・悪いがお前に対してそんな愛嬌を見せるつもりはないんだ。
優希を奪った張本人だからな、お前は」
・・・・もうひとりの、僕…彼女、林原優希の命を奪った、張本人?!
・・・それって…霧夜じゃなかったの??
