
仔犬のすてっぷ
第37章 仔犬のすてっぷ
たしか…あちらの世界で見たトーマスの頭の中のビジョンでは…
外人みたいな敵を殴り殺したトーマスが、亡くなぅている彼女…優希を見て深い悲しみに落ちていく・・・そんな感じだったけど。
そう言えばその前の状況は見えていない。
いや、知らないと言い直したほうがいいのか…?
・・・どちらにしても、僕達は知らないことが多すぎる。
だから、目の前から迫る敵の、甘い誘惑が僕らの中に甘美に響くんだ。
「識りたいだろう?どうして彼女が死んでしまったのか…どうして、相棒と同じ存在の姿が見えないのか…
どうしてそもそもこの世界がこんな世界になっちまったのか……俺なら教えてやることが出来る」
「随分とまたサービス精神が旺盛になっちまって・・・どうしたい?敵のボスともあろうやつが、ガッコーのセンセーとかにでもなったつもりか?」
「そうだな…今の俺なら簡単におっさんを殺してそこの二人を連れ去ることも出来なくはないが、それじゃあつまらないからな…。
俺は、その二人が堕ちて俺達のもとへ来るところが見てみたいだけだなんだが……」
「おっさん…あいつ、強いのか?」
ファイティングポーズを取った蒼空がトーマスの顔色を見てただ事ではないことを悟っているけれど……。
誘惑の甘い言葉は僕の心を確実に掴んでいる。
・・・知りたい。
・・・識りたいけど…知ってしまったらいけない気がする。
あれは・・・きっと、悪魔の誘惑と同じモノなんだ。
・・・ぼくは、あくまにたましいを、うる、つもりは………。
・・・・・無い!!!
「・・・答えを聞こうか?優希。知りたいか?」
暗闇の中から楽しそうな声が響いてくるけど…。
僕の気持ちは決まっている。
「・・・僕はあなたの思い通りにはなる気はないよ。だから、答えはNOだ」
「・・・そうか…それは残念だ。
やはりお前らしいな……それでこそ、殺し甲斐もあるってもんだ」
影の中から納得したような声と笑いが聞こえた後、あれだけ張り詰めていた空気がいっぺんに軽くなった。
・・・え?殺気が、消え去った?!
