
仔犬のすてっぷ
第11章 最初の、すてっぷ
「優希、風呂入りに行こうぜ♫」
このホテルは、内湯と露天の、大きく分けて2つの大浴場がある。
温泉には魅力を感じるけど、小5の夏休み前に家族で湯の山温泉に行って以来、大衆浴場系は銭湯から温泉にいたるまで、全部行けていない。
体の疵を、他の人に見せたくないから…。
疵の事は、家族も知らない。
見せればあの事を教えなければならない。
教えれば、気を使わせるだけじゃなく、あの人達について、話さなければならなくなる。
・・・あの人達の事は、自分の中だけで完結させたんだから、話してぶり返したりしたくない。
・・・だから
「ごめん。気分じゃ…無いんだ。
僕はいいから蒼空は行っておいでよ」
「体を洗わなきゃ、汗かいてるし、汚いぜ?」
「…部屋の風呂に入るから大丈夫だよ。一応、温泉来てるみたいだし」
「んだよ?ノリが悪いなぁ…ほら、一緒に……」
ーー バシッ!
笑いながら伸ばして来た蒼空の手を、僕は反射的に強く払い除けてしまった。
手と手が弾ける大きな音が部屋の中に響く。
「?!な・・・?」
「・・・・・・。」
いつもとは違う表情、反応に、蒼空は一瞬驚いたようだった。
(…あ。や、やってしまった……?)
……けど。
「そおんなに照れるなよ〜♡ 裸の付き合いは男同士のお約束じゃん♪」
その位で彼はメゲたりはしなかった。
部屋に備え付けの浴衣に着替えていた僕の、その襟元を蒼空は、わっし!と掴み、鼻歌混じりでひょいっと持ち上げる。
「だーーーっ!!僕は猫じやなーい!!」
「さあ☆一緒にお風呂に入りましょーね♡」
そのまま備え付けのバスタオルやらのアメニティ類が入った袋を二人分、しっかり手にとってから、蒼空がピタリと動きを止めた。
「……なあ?そーいやあ、優希はさっき、部屋に風呂が付いてるって言ったよな?」
「う、うん。普通、大抵のホテルなら小さなユニットタイプの風呂が付いてるもんだよ。温泉が出る所は少ないけども」
「この部屋…セミスイートだろ?だったら……」
