ぼんやりお姉さんと狼少年
第15章 月色の獣 - 新月に疾く
「加世……探したんだよ。 どんなに、よくぞ無事で」
「お父様……」
なぜ放っておいてくれなかったのですか。 そんな言葉が加世の口から出かかった。
しかし髪を振り乱し、かつて威厳のあった姿の父はそこに居ない。
灯りを手に持った父は以前よりもやつれて見えた。
「加世。 おいで、さあ」
「…………」
後ずさる加世に父は、娘を胸に抱こうとするかの様に腕を広げながら進んでいく。
「加世」
加世の視界が涙でぼやけ、──────その瞬間に、素早く二人の人間が加世に向かって進み勢い弾けた。
「…う……っう」
「お前は」
「…………!?」
衝撃で再び地面に叩き付けられた加世は、一瞬の事で何が起こったのか分からなかった。
ただ父親は太い脇差しの刃物を持っており、庭師が腹を押え膝を崩していた。
彼が完全に崩れ落ち、指の間から滲むその赤黒い血らしき液体が地に吸い込まれていく。
「なぜお前が……いや。 この男は何も知らなかったのだから仕方が無い」
「お父、様?」
「加世。 なぜ見付かった? ……なぜ、生きていた? あんな事をして嫁ぎ先に泥を塗って、うちが無事で済むとでも思っていたのか?」
「…………」
「大勢が傷付いた。 あの白髪の男とお前の首でも持って行かなければ、武家とも親交のある先方は納得しないと言っている。 でなければうちや親戚中はもう終わりだ。 いっそもう死んでくれたら良かった」
「─────人とはかように異なるものだな」