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ぼんやりお姉さんと狼少年

第47章 番外編 - 琥牙くん、上京



たまに通り過ぎる男が彼女を見てく…………それを、不快に感じ始めている自分に気付いた。

これが発情なのかはよく分からなかった。


ただ、一緒にいると心がほぐれる。
自分の中の初めての感情に戸惑った。


「琥牙くん。 あんまり遅くなるとご家族が心配しちゃうよね。 お家は?」


こう言うと、彼女は傍に居させてくれるだろうか。
この危なっかしいのかよく分かんない生き物を、少しでも見てることが出来るのだろうか。


「帰る家はないんだ」


いつもおれは他人の役に立て。 そんなことを言われて生きてきたような気がする。

いいよ。
その方がおれも楽だから。
たとえ生まれつきに捕食者の資質を持っていようが、こんなひどく不安定な心と体の、おれはどうせ長くは生きられない。
自分よりも他の人のことを考えている方がずっと気楽にやっていける。

そう思っていた。


けれど桜井真弥。
そう名乗ったいい匂いのするこの人が、いつも笑いかけてくれたなら、自分はどんなに幸せなんだろう。
そのためならなんでも出来るような気がした。


ずっと見ていたい、なんて。


人は狼よりも淡白なのだときいたことがある。

このまま成長なんて、しなかったらいい。

そしたらほんの少しだけ。
おれが生きてる間だけ。


この人がおれの伴侶になってくれないかな。




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