ぼんやりお姉さんと狼少年
第18章 避ければ当たる面倒事
「ビアガーデン行こうビアガーデン」
「こんな暑いんだからホールのほうでしょ」
連休前の定時後。
職場にそんな声が飛び交う。
それらを耳に収めつつ、私はなるべく目立たないようにこそこそと帰り支度を進めていた。
毎度ではないにしても、少し前までは私もあのコミュニティの中にいた。
付き合いは大事だしね、社会人らしくそう思っていざ顔を出すと、それはそれで楽しんでしまうタイプ。
それだから油断すると危ないんだ。
親しい同僚男性に酔った勢いで抱きつかれでもするかと思うとぞっとする。
またいわれの無い疑いで、前みたいに厄介事に巻き込まれたくないもの。
と、そう思っていたのに。
私がそんな風に警戒する原因にもなったこの人が、なんでこんな所にいるんだろう?
オフィスビルの自動ドアを抜け、階段を降りた所で高そうなスーツを着こなすその人に会った。
「……あれ、高遠さん? なんで?」
「近くまで寄ったから。 どうしてるのかなって」
確かに彼と私の会社は近い。
けれど、彼とは一度食事しただけの関係である。
「いきなり電車でも見掛けなくなるし、LINEも既読つかないし、ちょっと引っかかって」
見た所、彼の腕の怪我は治ったようだ。
ああ。おそらく。
余りにも突然で不自然な私のフェードアウトに、彼氏である琥牙となにかあったのかとか。 そんな物騒なことでも心配してくれたんだろう。 そう察した。
さすがは弁護士。
「大丈夫ですよ。 実は私、引っ越したんです」
それに、私が原因であんな怪我をさせておいていきなり音信不通にした私も、常識で考えると大概失礼なことをした。