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ぼんやりお姉さんと狼少年

第28章 狼少年を追え


そう言ってフロントに向かい、従業員らしき受付の女性と何やら話をしている。
離れた所で待っていたがこの位の背で……などという会話がそこから聞こえた。

どうやらわざわざ彼の事を訊いてくれてるらしい。
以前琥牙にあんな目に遭わされたというのに。


「ちょっと訊いてみたらそれらしき子、確かに連泊はしてるけど今は外出中なんだってさ」

「個人情報保護とか煩いのに、教えてくれるものなんですね」


いくら知り合いとはいえ、このご時世に。


「そこはほら、職の特権で」


大きいとこなんかだと書類のやり取りがあるんだけどね。 そんな風に小声で話す、彼の背広の襟に光る弁護士バッチ。
それ職権乱用……と言いかけたがそこは黙っておいた。


「というか、ボーッと待ってるより、部屋でなんか飲んで待ってた方が良くない? 受付には連絡入れてくれるように頼んどいたから」

「そうですね。 確かにここは少し暑いかも……」


あまり効いていない様子の空調にぱたぱたと手で顔に向けて風を送る。
そしてまたエレベーターに乗り、今度は廊下の突き当たりの一室に通された。

あれ、でもこれって。

今更はたと気付いた。

あまり良くない状況なんじゃないの?

背中に後ろからなにか触れた感触がして、咄嗟にそれを避けた。



「……あの私、一人で大丈夫ですから」


「桜井さんってホント面白いよね。 冷めてそうでそうでもなくって、しっかりしてそうでそそっかしくて」


なにかが可笑しいというよりも、愉しんでいるという高遠さんの笑い方だった。


「……普通だと、思いますけど。 デイユースですか? 今度はちゃんと会計」


なにか話さなければと平静を装うけれど、会話になってない。

辺りを観察すると彼の背後が出入口だ。

ビジネスホテルなんて場所、狭いに決まってる。



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