ぼんやりお姉さんと狼少年
第28章 狼少年を追え
壁に後ろ手をついていた体勢から真っすぐに立ち上がる。
ずかずかと彼に歩み寄り、そしてこれはボディブローというやつになるのだろうか。
私に殴られた琥牙も含め、男性二人が呆気にとられて私を見ている。
「真弥……そこ、肋骨の下って急所」
ぐっ。 しかし琥牙の腹が硬い。
それでも少しはダメージを与えられたらしい。
彼が若干眉を下げ、手のひらで脇腹を撫でている。
感じ入ったように、だが心配げに私に眼差しを向ける供牙様。
「肝の勘所を狙うとはいいセンスをしている。 ただ惜しいかな力が足りぬ。 拳を傷めるぞ?」
うん。 手も首も痛い。
それ以上に心が痛い。
『真弥に会いたくなかった』
だって琥牙はそう言った。
「……ネックレスの仕返し。 これ、気に入ってたのに」
本当は、言いたい事は違う。
私はずっとすごく会いたかったんだもの。
「ええと……ごめん…?」
そして俯いてる私の耳に届く、ようやくいつもの調子の彼の声。
するとせき止めてた感情が溢れそうになって、自分で混乱した。
「全然、話を……目もろくに合わせて、くれないし」
相変わらずヤキモチばっかり妬く癖に。
……私を放ったらかしにした癖に。
「……ごめんね」
こんな事でなんか泣いてやんない。
「っく…」
噛み締めた唇に彼の指先が添えられて、今度はそっと壊れものを扱うみたいに触れてくる。
だから嫌だったんだよ。堪んなくなるから。 性懲りも無くそう呟いたあとに、琥牙が私を柔らかく胸に包んだ。
また私の知らない間に少し身長が伸びた。
会ってなかったからすぐ解る。
そんな事を考えたらまた泣きそうになって、その分彼にかたくしがみついた。
しばらく私たちの様子を眺めていた供牙様が静かに声を掛けてくる。
「───────仲違いが収まった所でとりあえず、場所を変えぬか? 先程の男もどうも煩わしいしな」