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ぼんやりお姉さんと狼少年

第29章 始祖の子との対峙 前編


それでもなるべく負担のないようにと軽やかに地に降り立ち、背中は人よりも低い体高ながら、私にぶつかりそうな木の枝などの障害物も避けてくれる。


「そういえば、誰かを背に乗せたのは加世以来だな」


きっとその時も、いやその時はこれ以上に、彼は気遣って走ったのだろう。

そんな供牙様が、進んで琥牙と争うとは思えない。
もしもそんな気があれば、こないだホテルで会った時にそうした筈だから。


そしてそれは琥牙も同じ。

好んでそうしたくない者同士が、なぜ争わなければならないのか。


「本当に私のいる所に琥牙は現れるのでしょうか」


走っていくうちにびゅんびゅん後ろに流れていく景色。


「……琥牙の体と意識下に、二人の人間がいるんですか? 喫茶店であの時、なんだか少し琥牙の外見が牙汪さんに似たように思えたんです」

「それに近いものだろうと思う。 私が今の意識を保てるのは、この体の男の同意を得た上で、里や朱璃の恩恵のお陰もあるからだ。 そんな後ろ盾が無い状態で、自己を保ち続けるのは辛かろう」


「……私が、私と琥牙があの里に居続ければ」

「それが何の解決になる?」

「…………」


牙汪と、話が出来ないだろうか。

彼の思いを遂げさせれば、琥牙は元に戻るのではないだろうか。
牙汪を鎮めるにはどうしたらいいのだろうか。


そんな思惑に頭を巡らせながら、私と供牙様は再び里の土を踏みしめた。



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