ぼんやりお姉さんと狼少年
第29章 始祖の子との対峙 前編
「みな朱璃様と同じ思いで、静かに祈っているのです」
「それもあろうが」
伯斗さんの声を受け、供牙様が自分の手首を差し出した。
「朱璃が私を降ろした時に持たせてくれた。 この数珠のようなもの。 これからも不思議な力を感じたが」
「それは」
虹のような模様のそれは、初めに伯斗さんが私に渡したあの石で作られた数珠だった。
「ここで偶然採掘された鉱石です。 貴方様が居られなくなった後なのでしょうが、この地の祈りが込められています。 しかし史実とは異なる、貴方様のお強さには驚きました」
「大した事ではない。 力が同等だとして、そもそもこの男とまだ体が出来ていない琥牙では、器が違い過ぎる。 あれのように、今まで自分を上回る強者など見た事が無ければ気付かぬのだろう。 それよりも真弥。 お前はどういうつもりだ? 私に任せておけば良かったものを」
供牙と琥牙……というより牙汪を、私はあれ以上戦わせたくなかった。
だって少なくとも牙汪は、ここに供牙様を運んでくれた。
ああして安らかに供牙様が花の絶えないあの場所にいる事が出来るのは、あの牙汪のお陰だ。
「そうだ。 真弥」
雪牙くんが非難がましい視線を私に向けて、そののちにそれを下に投げる。
「オレは……真弥は、兄ちゃんに嫌われてもいいのか?」
「嫌われ……」
「だって兄ちゃんをあんな目に遭わせてる奴と……そんな奴となんて。 オレはアイツが大嫌いだ。 オレが兄ちゃんだったら、無理だ」