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ぼんやりお姉さんと狼少年

第31章 ゴールデン・ドーン



「それじゃ、俺はこれで……」


邪魔者は退散、と言わんばかりに踵を返そうとする二ノ宮くんを必死で呼び止める。


「まっ、待ってよ! 置いてかないで!!」


彼を追う私の声に、ふと何かを思い出したという風に二ノ宮くんが振り返りまた口を開いた。


「あ、桜井さん。そういや、朱璃様が女の子のお孫さんが欲しいって伝えといてって。 あれってアッサリ目だといいんだっけ?」


……何言ってるの?


「真弥に聞かれても。 知らないよ……そんなの」


困惑気味に言った琥牙に構わず二ノ宮くんが遠い目をし、今の私にとって死ぬほどどうでもいい話を続ける。


「あー、確かにそうかも。 俺らに雄が多いのは男側の責めが濃厚だからって説があるっけ。 あれ、でもサイズ的な問題だっけ?」

「二ノ宮くん」
「もういいから」


私と琥牙が冷たく口調を合わせると、さすがの二ノ宮くんもわざとらしく唇をぐっと水平に引き結んでそれを閉じた。

んじゃ桜井さん、とりあえず休み明けの会社でね。 そう言い残して、彼が元来た道を戻ってく音が小さくなる。

……やっぱり飲みは無しかな。 そう思った。


「年寄りってデリカシーないよねえ」

「若くったって、二ノ宮くんも大概だと思うよ」


彼の消えかかる足音を聞きながらボソボソと言い合い、辺りにしんと沈黙が訪れた。


「それはそうと……なんで逃げるみたいに帰るの? 里で気配が無いのに気付いて、すぐ追い付けたから良かったものの」

「そっ…っれは、だって。 見たくないって」


琥牙の顔を直視出来ない。


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