ぼんやりお姉さんと狼少年
第32章 桜井家の最終兵器
でも私としては。
隣でぼんやりと画面を眺めてソファに手をついている琥牙の指にちょんと小指を置いてみた。
「……ん?」
「ありがと」
そう、小さな声で言ってみた。
つい身内のことで甘えちゃったけど、怒ってるわけでもなくいつもの彼だ。
「いいよ。 お互い様」
そう言って目を細めて私の肩を抱き寄せる。
広くなった肩幅。
後ろ姿でももう女性に間違えられることなんて無いのだろう。
「疲れてるでしょ。 もたれてれば?」
「わ……お姉ちゃんたち、熱々なんだ?」
そんな風に身内に冷やかされると気恥しい。
美緒ってば、尻すぼみに言う私の上から独り言みたいな声が降ってくる。
「でもちょっとあれだね。 やりにくいな……うん」
「琥牙?」
「保くん。 保くんって一人暮らし?」
ソファの背に手をかけて私と反対側にくるりと振り返り、琥牙が二ノ宮くんに声をかけた。
「俺? 叔父と住んでますけど。 叔父の事務所兼の一軒家で、あと住み込みのお手伝いさん」
多分供牙様のことだからあれから早々に叔父さんに体を返したんだろう。
きちんとお礼とお別れを言ってなかったし、また会えるといいけど。 そんなことを思った。