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ぼんやりお姉さんと狼少年

第6章 どっちが肉食*


とうとういたたまれなくなった私は気分転換に散歩でもしようと、寝てる琥牙を起こさないようそっとマンションを出た。
彼と同じ空間にいるのが辛かったから。


見上げると今晩は満月だった。
当てもなく上を向いて歩きながら夏は星が少ないなあなんて、半袖では少し肌寒かったので自分の体を抱きしめる。

もう人通りの少ない通りの家々からはテレビや家族の笑い声が響いてくる。


「……うーん」


とっても虚しい。



『桜井さんって今まで何ふり構わず人を好きになった事ないでしょ?』


以前言われたそんな言葉をぼんやり思い出しているとLINEの振動に気付いた。


「あれ、高遠さん?」


あれからの彼の様子が気になってたので開いて内容を確認してみる。


『元気?』

『こないだは本当にすみませんでした。 腕は大丈夫でした?』

『やっぱり普通にヒビ入ってて。 今ギプス生活。 見かけによらず凄いね、彼』


あああああ、やっぱり。
思わず頭を抱えたくなった。

琥牙って人を人と思ってないのか。

きっと加減を知らないんだ。


『申し訳ございません。 でもあの、訴えたりはしないでいただけたら』

つい謝罪が社会人口調になった。


『そんな事しないよ。 既婚者が横恋慕して仕返しされたなんて言えないし。 罰でも当たったんだと思っとく』

返ってきた笑顔のスタンプにほっとした。

ありがとうございます、そう返したけどやっぱりこの人って悪い人じゃない。


『でも桜井さんにあんな熱烈な彼氏って意外だった』

高遠さんにはそう見えたらしい。
醒められたのかもしれないけど彼氏なんだろうな、一応。 そんな事を自嘲気味に思う。


『多分そのうち重くなるんじゃない?』

『重いのは私なんです』


そんな一文を打ってぱたんとスマホを閉じた。


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