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ぼんやりお姉さんと狼少年

第2章 琥牙という少年


当方桜井真弥26歳、出版社勤務の会社員。
現在彼氏ナシ。

私の性格はざっくばらんにいえばざっくばらんだ。
他人に言わせると、抜けてもいるらしい。

背が高い人って格好良いけどのんびりしてる子が多いよね。 褒め言葉なのかよく分からない評価を、小さな頃から受けてきた。



そんな私と琥牙との出会いは、二ヶ月ほど前の春。

通勤帰りの地下鉄構内に遡る。

ラッシュの波に呑まれて、階段から足を滑らせた私を、咄嗟にすくい上げてくれたのが琥牙だった。
階段の一段上にいた彼には何の支えもなかったにも関わらず、伸ばした腕が私の胸の下に回って、こちらの足先は浮いていた。

後ろを見上げ、それが年端も行かない少年だという事実に、私は思わずまじまじと彼を見詰めてしまった。


「……後ろから見てたらお姉さんってシャボン玉みたいだったよ。 もう少し、人とか段差とか壁に抗うとかしようよ」


そこまでふわふわしてんのかな。


「これでもそのせいで今まで色々痛い目に遭ってきてんのよ」


まるで頼りないみたいに言われたので、一応自身の逞しさを主張してみる。
捻挫位は日常茶飯事だ。

琥牙は困惑した表情をしていた。


そっと降ろされ、床を踏み締め改めて自重を実感する。
彼の腕。私とそれ程太さも変わらず何の変哲もない。


「変わった子ね? でも、ありがとう。 ジュースでも飲む?」

「お腹が空いたかな。 四日ほど食べてないし」


普通になんかの冗談かと思った。



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