ぼんやりお姉さんと狼少年
第9章 交わされる獣愛*
元々都心の中でも中心部に職場があるので文句は言えない。
とはいえ、引越しで通勤経路が変わった新しい路線は、以前よりも電車が混んでいるのが難点だ。
出入口に潰されるように立っている私に、すみません、そう困ったみたいに私に密着していたサラリーマンの男性は謝って来たけど、どうしようも無いものね。
そう思い、良いですよ。 と応じたが腰の辺りには朝っぱらからしっかり反応した男性のソレが当たってた。
そんな事よりも私はその次の瞬間に琥牙の事を思い出して寒気がした。
シチュエーションはさておき彼にバレた時の事を想像して。
私の可愛い彼氏は恐ろしく鼻が利く上に大変なヤキモチ焼き。
帰ったら怒られてしまうかな、そう思うと朝から憂鬱である。
それとも毎朝一緒に会社に付いてくる様になるかも。
「……有り得る」
引越しをしたから高遠さんとはもう出会う事もないんだろう。
時々彼から入るLINEは特にやましい内容じゃない。
けれど返事を返そうとして、躊躇う。
元々嘘をつくのは得意な方ではないから(というかぶっちゃけ面倒臭い)、揉め事があっても私は通り過ぎるまで黙ってるタイプで。
琥牙はそんな私とは真逆で、良い意味でも悪い意味でも真っ直ぐにもやもやをぶつける人間でもある。
私はそんな彼を好ましく思ってはいるのだけど、たまにもっと「上手く」やればいいのに。 なんて事も思う。
別に大人ぶりたい訳じゃない。
ただそう歳が変わらないといっても育ってきた環境が私と彼では違いすぎる。
美味しいものでも食べながら楽しい事を考えて、一晩すぎたらなんて事ない、そんな風に思える事は世の中にいっぱいある。
流れる車窓から緑の色や空が減り、その小さな枠に切り取られるのは無機質なオフィスビル群。
一晩すぎたらなんて事ない。
そう思わないとやっていけない事なんてウンザリするほどいっぱいあるのだ。