三匹の悪魔と従者たち
第2章 悪は善し
「……いっそジンが一番悪魔らしいよな。 俺らの中では」
「格好いいなあ」
「よせよ。 褒めてもなにも出ないよ」
二人の讃辞にジンが照れくさそうに頬にかかった銀髪をかき上げた。
彼ら魔族の中では『悪』は『善』とされる。
これは彼らの世界では教本に近いような不文律を持っていた。
「あ。 ゴウキ兄さん、ネズミ」
「おっサンキュ。 踏んじまう所だった」
「可哀想な目に遭わなくて良かったね、お前」
悪事は賞賛に値する──────そんな価値観の中で育ってきたにしては、いささか働き者で家族愛に満ち生き物を大切にするという、この三人がこうなってしまったのは、恐らくあの父親の影響だろう。
「でも、真面目にやんなきゃ特別手当出さないって言ってなかったっけ? 小声で」
「まじで。 で、なんでそこ小声?」
「ほらあの人、父さんって怖がりだからさ。 こっちの動向は向こうに筒抜けだし」
「野郎。 陰険な女みたいな真似しやがって……」
口汚くゴウキが罵るのも無理はなかった。
父親であるサタンは片親なだけあり、息子たちに対しては結構な過保護だった。
彼らが無断で他の世界と行き来するのは危険だと言って許さなかったし、成人を過ぎた今でも門限は21時と決められている。
付け加えて毎日の朝食は家族全員で取ること等々。