小さな花
第1章 Moegi Station Shopping Street
目をつむり、手元にある大きな紙をぐるぐる、ぐるぐる…何度も回転させた。
「よし…っ」
せーの、と心の中で言う。
「えいっっ!」
…人差し指は、日本地図の一点を指差していた。
「えぇっと…?あ、富士山の近くだ。」
洒落っ気のない爪の先には、”富士山”の文字。
案外近かったなぁと思いながらも、明日さっそく行ってみようと決めて眠りについた。
…
大学卒業後、都内で8年ほどウェブデザインの会社に勤めた。
付き合っていた彼氏が既婚者だと知ったのが1ヶ月前で、そこから私の唐突な計画が始まった。
べつに涙は出なかった。どうしてだろう。
…
すぐに退職願を提出した。
なんの前触れもなかったために、同僚たちはビックリ仰天。
特に仲の良かった少しの友達は、惜しみながらも背中を押してくれた。
今日は勤務の最終日で、帰りに会社で日本地図を印刷させてもらったんだ。
――…目をつむって日本地図を指差し、その場所へ引越そう。
誰も知らない土地で、平々凡々、ひっそりと暮らそう。
それが、私の計画だった。―――…