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小さな花

第3章 Saliva


「シンくんのさ」

「うん」


「たくさんいる彼女のさ、1人ね、見たことあるよ」

「はあ?」


「あの、すっごく綺麗な人!」


シンくんは一瞬考える素振りをしてから、たくさんいるからどの子か分かんないなぁとおちゃらけた。



「それよりお前、今日はおぶれって言わないのな(笑)」

「もう、そんなこと言わないもん!」

「ほお~?さいですか、そりゃ良かったわ」


ごめんねって、ありがとうって、言いたかった。…言えなかった。


引越しの時から、今でもこうして一緒に過ごしてくれるのは本当にありがたい話なんだ。


知り合いの少ないこの町で、シンくんを失いたくない。


めんどくさいって…思われたくない。




「なにその顔。ブスになるぞ」

無意識にうつむいていた私の顔を覗き込み、シンくんがおでこをつついた。


「痛っ!ちょっとー!!…って、それって…今はブスじゃないってことっ?」


「…あーあー、変なとこでポジティブだなお前は」


「ふんだ、冗談だようっ」



そう。
まともにそんなこと思ってるわけないよ。



とにかく今日は久しぶりに楽しかったんだから!
気分が良い…―――。






「いったぁい…!」


アパートの階段を登りきったところで、なにもないのにつまづいて転んだ。


「あと一歩で家だったのに、ツイてないねえ(笑)」


意地悪に笑いながらシンくんが腕を引っ張り、持ち上げてくれる。


…破れたストッキングの穴から血が滲んでいて、まぬけな自分に泣けてきた。



「たいしたことねえだろ。どれ見せてみ、一応」


玄関を入り、体育座りでシンくんに傷を見せた。


かすり傷の中央に、スッと一本の切り傷がある。


「うぅ…」


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