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小さな花

第3章 Saliva


「ね、シンくん」

「んー」

「なんか、食べたいものとかない?行きたいお店とか」


気の無さそうな返事をしながら煙を吐き出していた彼は、私の言葉を聞くとぎょっとした様子でこちらを見た。


「………はっ?」

「はって何よ」

「どういう風の吹き回し?また失恋でもしたか?」







その夜、シンくんが希望した地鶏のお店へやって来た。


しょっちゅう顔は合わせていても、一緒に飲むのは3ヶ月ぶり。


BLUEでのお給料が入ったら、シンくんに少しでも恩返しをしようと思っていた。



「で、いつの間にバーテンになってたわけね、お前は」

「そんなカッコいいものじゃないよぉ。簡単なお酒しか作れないし」



楽しくて、つい飲みすぎてしまいそうになる。


だけど、”酔うと甘える癖を直せ”というシンくんの言葉を私は真剣に受け取っている。


「あれ?あんまり飲まね―じゃん」


もちろん誰彼かまわずそうしているわけでは決してない。

シンくんだから気が緩んだんだ。


だとしても、もう30歳なんだから馴れ馴れしく他人に甘えるのは避けたほうが良いと思った。



「えっ、そう?」


知らん顔しながら、それでも飲みすぎないよう注意を払った。


「何~?きもちわりいんだけど。お前いつも、グビィー―っ!ていくじゃん。」

「き…今日はおしとやかな日なのっ!」


意味不明な説明をしながら私はチビチビと水割りを舐めた。






結局お会計を払わせてもらえなくて、私はぷんすか怒っていた。


「俺、ビンボーな女の子におごってもらう趣味ねーんだって」

「だから、バイト頑張ったのにいっ!」

「まあまあ。素直におごられとけ」

「…次は払わせてよっ!」

「はいはい。」



適当にあしらってタバコに火を付けるシンくん。

見慣れたその指先は今日もしなやかだ…。


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