小さな花
第10章 Accident and Incident
しばらくの沈黙が続き、無視かと感じた頃、倉田くんはやっと口を開いた。
「…―――聞いてますけど。なんで連絡する必要があるんですか?」
「はぁっ?!当たり前でしょっ?!」
「意味が分からないです。」
静かに冷静に答える倉田くんと裏腹、由梨さんはかなり取り乱し始めていた。
「―――なんで当たり前なんだよ?」
突然のシンくんの言葉に、彼女は驚いた様子だった。
「なんでって…だって、そうでしょう?私とシンは家族以上の関係なんだから、当たり前でしょう?ねえ?!」
「家族以上?」
「同じ施設で育って、結婚まで誓い合ったじゃない!」
…胸がチクリと痛む。
「はあーっ…。あのねえ」
シンくんは大きなため息をつき、言葉をつづけた。
「んな昔の話されてもこっちは困るし、もう俺とお前はなんも関係がないだろ。」
「そんなに私が憎い…?」
由梨さんの目に涙が浮かぶ。
「そういう事じゃなくって。何年も前のそんな話きかされて、迷惑なんだけど。…って、何度も言ったよな?」
「でもっ……でも、事実だから!事実を言ってなにが悪いの?私はシンとの結婚が運命なんだって気付いて戻ってきたのに…」
「俺、こいつと付き合ってんの。だからお前の気持ちには応えらんない。お前は嘘だって信じなかったけど、本当に付き合ってんだよ。そうだよな?」
シンくんは、椅子に座っていた私のひざに手を置き、私に問うた。
私が少しだけ頷くと、途端に由梨さんは泣き喚きだした。
「どうしてっ?!こんな子供みたいな子と…っ!」
立ち上がって私を指さす由梨さんの目から、涙がこぼれた。
「やめてください。ここ病院です。」
制する倉田くんを無視して彼女は続けた。
「私のほうがシンを愛してる!ずっと前から…っ!!」
静かにしろ、とシンくんが言うけれど、由梨さんは荒々しい鼻息を立て、顔を真っ赤にしている。
「…でも、……あなたは彼を裏切った。」
私は自分が思うよりも冷酷な自分の声色にすこし驚いた。
瞬間、由梨さんは私をものすごい形相でにらむ。
あまりにも大きな声だったので看護師が駆け付け、「お静かにお願いしますよぉ~?」と注意した。
「すみませんでした」と倉田くんが頭を下げ、由梨さんの腕をつかんで強引に病室から去った。