テキストサイズ

嵐びーえる。

第16章 番外編③ 真実のその後で

世「じゃあいいんですか一億円は?」

いくら伝えても僕の言葉が届かない。

もどかしさに、背を向けたまま、声を荒げた。



渡海先生が、足を止めた。



その背中に向かい、さらに投げかける。



世「渡海先生には一億借りがあります。でも…」


居たたまれなくなって、俯いた。





世「まだ何も返せてないですよ」



自らの不甲斐なさに腹が立つ。僕がもっとちゃんとしていれば、渡海先生が出ていくことにはならなかったのに。真実が日の目を見ることはなかったのに。




あの日、偶然見てしまったペアン。
その真実を探ろうと、奔走した僕。
歯車を狂わせたのは、僕なんだ。




走りながら、僕の切な願いを、言葉に乗せた。




世「だから、僕のこともっとこき使っていいんで」



歩みを止めない渡海先生の前に、回り込む。



世「命令していいんで。出ていかないでください」



響いているのかは分からない。けれど、もしかしたら考え
を変えてくれるかもしれない。




出会ってから、何度も反発したけれど、それでも、渡海先生に惹かれていたから。





頭を下げた。



目の前の渡海先生の視線が、痛い。



なおも頭を下げ続けると、渡海先生は視線を彷徨わせ、それから、面倒くさそうにため息をついた。

上を見上げながら、ぼそりと呟く。



渡「分かったよ」



望んでいたはずの言葉、けれど諦めていた言葉に、顔を上げた。

僕を見つめる、暗く、それでいてどこか温かさのあるような目に、射竦められる。









渡「というか腹減った」








世「はい?」





思わぬ言葉に、間抜けな声が零れた。




渡「米炊いてこい」








世「コメ?」



渡「早く」


ああ、戻ってきてくれるんだな。安心感に、頬が緩むのを隠せない。



世「はい」




足取り軽く、仮眠室へ向かった。



ストーリーメニュー

TOPTOPへ