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妄りな昼下がり(仮)

第3章 達也 時々 成

達也はひたすら西へと運転している。あまり手入れのされてないフロントガラスは雨粒を弾かない、ワイパーは僅かに雨粒の邪魔を防いでくれている。
車内は雪の聴いた事の無い洋楽が流れている。

「達也さん、これは何て言う歌手の何て歌なんですか?」

「えと、なんだっけな?マルーン5かな?友達に録音して貰ったからあんまり詳しくないんよね。」

なんとなくだけど、達也の言う「友達」というのは女性だ。雪は直感でそう思う。
次に再生されたのは、雪も知ってるイギリスの歌手の歌だった。
イギリス英語が好きな雪はついつい口ずさんでしまう。達也が白い歯を見せて笑った。

「まだ会って二回目なんやけどさ、雪ちゃん・・」
「なんですか?」
「好きになってしまいました・・」

暫しの沈黙の後、雪はハンドルを握っている達也の左手を右手でそっと掴んだ。

「ごめん、雪ちゃん。俺の事嫌やったら振って・・」
雪は、かぶりを振る。家に帰れば成がいる、独身の雪はこれから彼氏に一生言えない罪を犯す。そもそも初めから犯す気で来ている。刹那的に雪は自問自答する。しかし微塵も罪悪感は湧いてこなかった。

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