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妄りな昼下がり(仮)

第4章 雅人 時々 精神科医

三杯目の赤ワインがグラスに注がれている。雅人は雪が酒に強くない事を知って、気持ち少なめに注ぐ。その気遣いが雪は堪らなく好きだった。
カットしたブルーチーズを2人で「あて」にしながら、お喋りに花が咲く。

「雅人さんはどうしてシェフになったんですか?子供の頃からなりたかったとか?」

雪は心底、雅人の過去を知りたかった訳では無い、ブルーチーズは祖父の家の本棚の匂いがするなぁと思いながら、ただなんとなく聞いただけだ。

「いやいや、別にそんな訳じゃないんだよ。うちの実家はね、料理屋してたんだよ。親父が脱サラしてなんとなく始めた料理屋がセンスも無いのに流行ってしまったんだ。
だから、まぁ親の背中を見て育ったのかなぁって感じかな。」

親の背中かぁ、とブルーチーズをどんどんと頬張りながら雪は相槌を打つ。

「じゃあ雅人さんは、センスがあるからトンビが鷹を生んだって感じ?」

「いやいや、蛙の子は蛙って感じかな?雪、三杯目空いたよ。次は何飲む?赤、白?酒のつまみに雪のご両親の話し聞かせてよ。雪に似て素敵な人なんだろ?でも雪は次の一杯でストップだよ。酩酊したら大変だ。しかし、雪は飲むのが早いなぁ。俺に合わせなくて良いんだよ。」

四杯目の赤が注がれる。ボトルでいうと3分の2くらいは飲んだのだろうか。徐々に雪も気分がハイになってくる。

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