🌹密会🌹
第12章 🌹March🌹(終章)-3
「参ったな。その引き出しを開けられるとは思っていなかったよ、美月。」
日比谷教頭の声に我に返った美月は、彼が書いた退職願を手に持ったまま、慌てて振り返る。
「黎一さん...その...すみません...まさか、こんな物が入っているとは微塵も思ってなくて...。」
「まあ...そうだろうな...もっと見つけづらい場所に隠しておくべきだった。迂闊だったよ。何もかも分かってしまっただろう。」
「.....本当に退職するつもりなんですか...?」
苦笑いを浮かべたまま寝室に足を踏み込み、レンジで温めたお粥をパソコンデスクの端の方へ静かに置いた日比谷教頭に、美月は恐る恐る尋ねる。
「そうだ。大変時期が悪いが、致し方ない。お前を性暴力の被害者にしてしまった以上、私は辞めるしかないだろう。」
「...黎一さんはご自分の事を性暴力の加害者だって言いたいんですか?」
「当たり前だろう。私は逃げられぬようにお前の服を隠し、痛めつける為に屋外に設置してある給湯器のコンセントを抜いた。服を剥ぎ取っても逃げる可能性があると思った私はお前を唆して拘束具で監禁した。その挙句、嫌がるお前に何度も膣内射精を行った。ああ...扼殺未遂もあったな。何度もお前を罵倒しただろう。許される事ではない。」
「で、でも今日は私の為に誠心誠意尽くしてくれました。何度も謝罪をしてくれましたし、私以上に身体の事に気を遣って下さって嬉しかったんです。昨日は確かに怖かったですけど、でも私、貴方に教師を辞めてほしいんじゃない。」
「...美月、そう簡単に私を許すな。私は当然の事をしたまでだ。それでお前へ暴行を働いた過去が消えるわけでもないだろう。お前の人生において私は必要の無い人間だ。当然、その指輪をお前に渡す資格も無い。せめて退職という形でケジメをつけさせてほしい。」
「指輪を....私に...?」
聞き捨てならない言葉が美月の鼓膜を揺るがし、思わずすぐさま聞き返す。
すると彼は何処か諦めたような笑みを更に濃くすると、美月から目を背けながらゆっくりと口を開いていく。