🌹密会🌹
第3章 🌹June🌹
季節は6月の中旬。
梅雨入りが始まり、傘の出番が多くなる時期だが、私はうっかりしてたのか、それとも日々の忙しさで疲れていたのか、どちらかなのか分からないが、午後は土砂降りの雨が降ると分かっていながら、大きい傘を持ってくるのを忘れてしまっていた。
お陰でバケツをひっくり返したような雨を前に、職員玄関前から一歩も前に動けないという有様である。
誰かが置いていった傘を素知らぬ顔で盗むという行為は性格上出来ず、
偶然通りかかった職員の傘に滑り込んで途中まで雨に濡れずに帰る予定でいたが、さっきから誰も退勤する職員が居ない。
無駄な時間を15分程過ごしたところで、濡れ鼠になる覚悟を決めた私は、勢いよく走り出そうとしたが、その瞬間、「米倉さん」と威厳と落ち着きを加えた声で呼び止められた。