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副業は魔法少女ッ!

第4章 想いの迷い子



「案外、知れ渡っているんだ」

「他人事みたいな言い方。私は気まずかったのに」

「向こうは椿紗が魔法少女事務所をしているなんて、知らないでしょ。それに、そういうのに興味あるなら、スカウトすれば来てくれたかも」


 神妙な目で微笑む少女の顔が、目に浮かぶ。

 彼女との数年間がなければ、椿紗とてこの鈴を鳴らすような声は、幻聴だとでも解釈していたかも知れない。


「……椿紗」


 彼女がこの世に現れる時、依代である花壇を含む周辺は、四季を忘れる。果てしない春が続いてでもいる具合に咲き乱れる、とりどりの花の真上を、心なしか悲しげな風が通りすがった。


「ルシナメローゼや私は、都市伝説なんかじゃない。なのに人間は、面白おかしく推測だけ並べ立てる。興味を満たす情報を、安全圏から貪って、与えられる餌を待つ豚みたい」


 悲嘆を装う少女の声は、底知れない憎悪を滲ませていた。

 椿紗は彼女を否定しない。彼女はかつてルシナメローゼにいた住人で、椿紗は現実世界に今、生きている。それでも彼女に寄り添えるのであれば、全世界も否定する。

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