
副業は魔法少女ッ!
第1章 アルバイトで魔法少女になれるご時世
「なずなちゃんの家には送って行く。彼には説明するわ。私は大学の先生で、提出課題で呼び出していたことにするから、安心して」
「待って。明珠は顔出ししてるから無理だよ。先生の振りなら、あたしが」
「ゆいかだと先輩にしか見えないじゃない。聞く限りだと、そいつ、私がインタビュー受けるような雑誌は見るタイプじゃないでしょ。平気。だからなずなちゃん、食べるもの何か買ってくるわ。ゆいかは、その間にお化粧直してあげて」
肩で風を切るようにして、颯爽とゆいか達の側を通り過ぎていった明珠は、そのまま扉の向こうに消えた。
「顔洗ってきて」
「…………」
背中を丸めて、すぐるという男を庇っていなければいけない呪いにでもかかった風な大学生は、しずしずとゆいかに従った。時の止まったような無音の部屋に、彼女の顔を弾ける水音が、洗面所からこぼれ出る。
途方もない恐怖がゆいかを襲った。
もし今、四日前の発作が起きたとする。なずなを動揺させるわけにはいかず、ゆいかはあてもなく飛び出して、さっきの彼女ではないが、どこかに蹲るのだろう。人目を避けて夜闇にまぎれて、次に目蓋を開けた時には、見知ったものの全てを失くしているかも知れない。家族や友人達にも、そして明珠にも、何も伝えられないまま。
「お待たせしました……。あの、私の顔、汚いので……お目汚しして、ごめんなさい……」
ゆいかの見上げた声の先に、自虐するほどの姿はなかった。
一定の年端を過ぎた女であれば、十人中半数は、素顔を晒すことに抵抗がある。だが傍目からすれば、本人が神経質になるほど気にならない。実際、なずなは泣き崩れたせいで既にほとんど地肌が覗いていたが、今改めて彼女を見ると、予想以上だ。
なずなが羨ましい。と同時に、彼女に信頼されている、すぐるという男に良い心象が持てない。
