
副業は魔法少女ッ!
第1章 アルバイトで魔法少女になれるご時世
事務員という立場のゆいかは、直接は接客に関わらない。それでいて亜麻色の巻き毛にガーリーファッションという佇まいのせいか、入社時からゆいかの見た目は目立ったようで、化粧だけでも教えてくれ、と社員らが請うてくることがある。彼女らこそ卓越した情報量を備えているのに、ゆいかの化粧は評判が良く、それは明珠も認めていた。
「葉桐さん、いつもこんなに持ち歩いてるんですか」
化粧水を馴染ませたなずなの肌に、コントロールベースを伸ばしてコンシーラーを置いていると、にわかに彼女が口を開いた。
「趣味だから。ゆいかでいいよ」
「……じゃあ、ゆいかさん。一色さんも、すごく綺麗な人ですよね。さっき雑誌が何とかって……。モデルさんですか」
「ううん。ヘアメイクサロンの社長」
「じゃあっ、ゆいかさんも?どうしよう、そんな、お仕事にされてる人に、こんなことしてもらっちゃって……」
「いいってば。趣味って言ったでしょ。一昨年くらいまで無知識で、入社決まった途端、学べとも言われてないのに興味持っただけだし」
指に吸い付くような、もち肌だ。目蓋の二重幅は天然とは信じ難いほど綺麗に左右対称で、長いまつ毛は濃くもある。通った鼻梁、小鼻はあえてコンシーラーで薄めなくても、あどけなさの残ったなずなの顔には、このくらいがちょうどいい。
「どこの洗顔剤、使ってるの。全然荒れてなくて、驚く」
「◯◯……です」
「へぇ、あそこのか。じゃあ、◯◯使えば、なずなちゃんの肌の香りがするってことだ」
「何ですかー、それ」
なずなに化粧を施す間、ゆいかは彼女の好きなものを聞かされた。コスメやロリィタの洋服を始め、彼女は魔法少女が好きらしい。もちろん架空の存在としてだが、いわゆるアニメ好きではなく、そういったものを観たのは子供の時分が最後だという。
