
副業は魔法少女ッ!
第5章 きららかな表皮にくるまれた残酷
「ねぇ、すぐるくん」
「何、改まって。いただきます」
すぐるは腹が減っていたのか、小言の一つもこぼさないで、手を合わせて取り皿を持ち上げた。
南瓜の煮物に、ささみのサラダ。海鮮シチュー。……
それらを口に運びながら、上手く出来てるじゃないか、これ好きなんだ、と、初々しい恋人のように褒め言葉を向けてくる。
なずなは、急に不安になった。
もしかすれば自分は、考えていた以上に彼を愛しているのではないか。
彼の話をしている時、楽しそうな気がしない。ゆいかの指摘に惑わされていただけで、なずなは彼とのこうした時間を、本当はもっと大切にしたかったのではないか。
話を切り出したくない。だが、この日々を永遠にしたいなら、尚更、目を背けるべきではない問題だ。
「すぐるくんの家、女の子のお洋服や食器があるでしょ?」
「っ、……」
「誰が使ってたの」
声を低めたのは、また昼間の感覚がなずなを襲ってこようとしたからだ。今いる時間軸から、無理矢理引き剥がされる感覚。そこにしがみつくようにして、なずなはすぐるを睨み上げる。
戦慄した男の顔が、なずなを見下ろしていた。拳を上げて、振り下ろす。その行動に出る時と同じ殺気をまとった彼の両目が、赤く染まった。
ぼろっ…………
大粒の涙が頰を伝った。
あくまで小指の先ほどもない、そんなひとしずくの塩水に弾かれるようにして、なずなは食卓に肘をついた。頭を掠める映像が、また、遠のく意識に紛れ込んでくる。数えるほどしか訪ねた覚えのないすぐるの実家、その玄関、廊下、並んだ扉に、彼の私室。間違いない記憶の断片に、知らない少女の私物や名残りが、差し込む。
第5章 きららかな表皮にくるまれた残酷──完──
