テキストサイズ

副業は魔法少女ッ!

第5章 きららかな表皮にくるまれた残酷


* * * * * *

 なずなは、すぐるの実家をほとんど訪ねたことがない。両親が留守の時、短時間だけ彼の私室に滞在することがあっただけだ。他の部屋には、決して行くなと厳しく言いつけられていた。それにトイレに行きたくなる頃合い、彼から外出の提案があった。


 なずながすぐると交際してまもなく、彼は笑わなくなった。生来、陽気な子供だったかは思い出せないにしろ、歳月の流れが彼の気難しさに輪をかけた。


 今日まで気にならなかったことが、いやに気になる。

 ゆいか達と楽しい時間を過ごしてきて、なずなは気が大きくなったのか。今夜は、会話の主導権を自分が握れる確信が持てる。


 すぐるが不義を犯そうとしたのは、ゆいかの罠にかかろうとした時期だけではない。それ以前からだ。

 なずなは、いつの間にか心の中で、八神すぐるという人間を、自分にとって都合の良い人物に仕立て上げていた。なずなだけを束縛して、支配して、全てを合理的に処理しようとする男。…………



 引き留めるなつるを納得させて、夕方、なずなは帰路に着いた。

 軽く部屋を掃除して、すぐるのために夕餉を準備し終えた頃、軒先から物音がした。


「お帰りなさい。お疲れ様、すぐるくん」

「ただいま」


 なずながずっと在宅していたと解釈しているすぐるは、優しい。穏やかに目と目を交わしたあと、奥の部屋に荷物を置いて戻ってきた彼のために、なずなは飲み物や箸の準備を始めた。

 着席して向かい合った時、なずなは話を切り出した。


 シンデレラの魔法が解ける瞬間だ。

 もしかすれば、なずなはガラスの靴を割ろうとさえしているかも知れない。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ