
副業は魔法少女ッ!
第5章 きららかな表皮にくるまれた残酷
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なずなは、すぐるの実家をほとんど訪ねたことがない。両親が留守の時、短時間だけ彼の私室に滞在することがあっただけだ。他の部屋には、決して行くなと厳しく言いつけられていた。それにトイレに行きたくなる頃合い、彼から外出の提案があった。
なずながすぐると交際してまもなく、彼は笑わなくなった。生来、陽気な子供だったかは思い出せないにしろ、歳月の流れが彼の気難しさに輪をかけた。
今日まで気にならなかったことが、いやに気になる。
ゆいか達と楽しい時間を過ごしてきて、なずなは気が大きくなったのか。今夜は、会話の主導権を自分が握れる確信が持てる。
すぐるが不義を犯そうとしたのは、ゆいかの罠にかかろうとした時期だけではない。それ以前からだ。
なずなは、いつの間にか心の中で、八神すぐるという人間を、自分にとって都合の良い人物に仕立て上げていた。なずなだけを束縛して、支配して、全てを合理的に処理しようとする男。…………
引き留めるなつるを納得させて、夕方、なずなは帰路に着いた。
軽く部屋を掃除して、すぐるのために夕餉を準備し終えた頃、軒先から物音がした。
「お帰りなさい。お疲れ様、すぐるくん」
「ただいま」
なずながずっと在宅していたと解釈しているすぐるは、優しい。穏やかに目と目を交わしたあと、奥の部屋に荷物を置いて戻ってきた彼のために、なずなは飲み物や箸の準備を始めた。
着席して向かい合った時、なずなは話を切り出した。
シンデレラの魔法が解ける瞬間だ。
もしかすれば、なずなはガラスの靴を割ろうとさえしているかも知れない。
