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副業は魔法少女ッ!

第6章 幸福の血肉



 …──ルシナメローゼに干渉するわ。私はあすこに負の感情を蔓延させて、私達の世界を幸福にするの。それで誰が困ると言うの?


 少女の理屈は理に適っていた。

 所詮、ルシナメローゼは架空の世界だ。自然の理からしても、少女の発想は合理的だった。しかし彼女の悲願も虚しく、彼女は死んだ。二つの世界をより確かに連結させるための魔術が完成した頃、原因不明の病に倒れた。

 二度も親友を看取った椿紗は、再びルシナメローゼに生を受けた。そこでは、少女のかつての親族達が、彼女を怨霊と呼んでいた。まるで魂が呼び合ってでもいる風に、彼女も転生していたが、彼女への人々の不信感は激甚だった。安楽の地と現実世界を作為的に結んだ罪が、問われていたのだ。
 彼女は弁明に努めた。前の生では魔が差した。だが今あちら側を貶めれば、ルシナメローゼの安楽は、無限になる。そうした彼女の理屈に共感した住民達は、彼女を護った。椿紗も彼女の処刑を訴える動きに対抗したが、彼女は十五に満たない内に、殺された。





「それからルシナメローゼは滅んだ。罰が下されたんだと思ってる。彼女と私は、一緒にいたかっただけ。特別な地位も幸福もいらなかった。だけど普通に生きていくことが、私達には特別なことだったのね」

「…………」


 茜色がブラインドから差し込む事務所。

 椿紗は、ここで栗林に少女との来し方をありのまま語った。
 自分は、魔法少女でなければ霊能力者でもない。このルシナメローゼと名付けた派遣事業さえ、少女の力がなければ実現には漕ぎ着けられなかった。

 あの架空の世界での記憶を取り戻したという栗林は、辞職を願い出てきた。椿紗の事業は、長い目で見ればルシナメローゼのためになるかも知れないが、かつての眷属を封じていることには違いない。彼らの魂はどうなるか。椿紗は本当に自分達の味方か。

 栗林の疑念を解くために、椿紗は話した。

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