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副業は魔法少女ッ!

第6章 幸福の血肉



 焦燥を諦念が塗り替えていく。


「ぁ……ぁっ……はぁっ、はぁ……」


「ゆいかちゃん、取り返せる?……っ、しっかりして、私が行くから!」


 なつるが遠くで何か叫んでいる。

 何も希望が見出せない。

 もとより二人でこの状況を覆そうとしたこと自体、無謀だった。なずなの指輪が盗られた時点で、ある程度の諦めは必要だった。


 ルシナメローゼは、現実世界の人間達が生んだ世界だ。

 現実世界に不条理がなければルシナメローゼは生まれなかったし、所詮、ゆいか達のいる現実は、負の感情なしでは生きていけない。ルシナメローゼの怨嗟が世界を覆っても、被害者など初めからいない。ルシナメローゼという存在が、もとより被害者だったのだ。

 人間は汚い。自分達の心を映した鏡同然の世界を、互いに一方的に疎んじて、臭いものに蓋をすることだけ考えている。

 現実世界から負の感情を遠ざけても、今度はルシナメローゼに祈りが必要になるだけだ。不幸な人間は憎んで祈って、またすぐもう一方を活性化させる。魔法少女達のしていることは、現実世界のエゴの肩入れだ。

 いっそどちらも滅びた方が、苦しまなくなるのではないか。…………


「ゆいかちゃん!……アアッ!!」

「なつるさん!」


 黒い煙幕。だが心地良い。暖かな宇宙にでも弾き出されたようだったゆいかの目の前に、赤い塊が飛び込むや、なずなの絹を裂くような声が聞こえた。

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