
副業は魔法少女ッ!
第6章 幸福の血肉
まるで光がなずなを守護している。慣れ親しんだ姿でないにせよ、それが魔法少女であるとだけは分かる。
「わ……私……」
なずなが何か言いかけた時、ゆいかの視界に、まだ猛威を振るっている怨嗟を見た。獰猛な獣の剣幕で、不可視の壁を引っ掻いている。
「──……」
なずなが手のひらを怨嗟に向けた。無言の命令を下す目つきで、彼女が数秒、黒い塊を黙視すると、ずるりとそれは崩れ落ちた。呻吟も上げなくなった小さな乳白色の石が、あとに残った。
憑き物の落ちたようなレストランの空間が、そこにはあった。
どっと疲れが押し寄せてきて、ゆいかは魔法少女の姿を解く。
「あの、大丈夫ですか?!」
「お怪我なさいましたか?」
ゆいかとなつる、なずなの近くにいた客達が、食卓の席を立って駆け寄ってきた。
現実世界では、今の騒動はグラスが倒れるくらいの突風が入り込んできたことになったらしい。その直後に、三人してレストランの通路に深刻な顔で座り込んでいたのだから、仕方がない。
「あ、すみません。落とし物してしまって……。見つかったので、どきますね」
「お客様、昼間もいらっしゃいませんでしたか」
「店員さん!……その、もう一つ落とし物がありまして……」
なずなの必死の呼びかけに、一度は立ち去りかけた店員が踵を返した。
その時、バックヤードから女が出てきた。
なずなの行方をくらませていた魔力が、濃さを深めた。しかし出てきた第三者は、彼女の指輪を抜き取ったという店員ではない。そこにいたのは、ゆいか達のよく知る人物だ。
