
副業は魔法少女ッ!
第6章 幸福の血肉
「ルシナメローゼは、心が作り出す世界のはず……現実には存在しないと……」
怨嗟の侵食より強烈な影響力が、ゆいかにまとわりついてきた。
マスコットに触れた指が感覚を失くして、麻痺が全身に広がっていく。
なずなの魔力だ。
椿紗がスピリットジュエリーを集めていたのは、彼女の親友の存在感を保つため、そしてルシナメローゼに生気を送り込むためだ。椿紗が八神菫子という魔法少女を諦めきれなかったのは、それだけ必要だったからだ。
死んでも尚、なずなに力を送り込めただけの魔法少女。
彼女のスピリットジュエリーが、椿紗にルシナメローゼを体現化させたのだ。
「天方なずなは、十四歳で死んでいた。怨嗟に憑かれて、八神すぐると殺し合って……」
歌う調子で、椿紗が話し出した。
「菫子の犠牲が、あの二人を生かしただけ。菫子の死が、あの二人を不幸にした。不幸の上に成り立つ命。生きても不幸になるだけの命。そんな可哀想なものを、貴女は生かしておけと言える?」
「あ"ァッ!!」
地面を突き破ってきた腕が、ゆいかを引きずり込むようにして、地面に押さえつけてきた。
見えざる腕は、何本あるのか。怨嗟と戦っている時とは違う。負の感情が肉体をかいくぐってくる感覚はない。
椿紗の理屈を非難して、今一度、ゆいかは無数の腕に抵抗しながら、使い慣れた魔力に意識を向ける。
第6章 幸福の血肉──完──
