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副業は魔法少女ッ!

第7章 私だけが独りだった


 図書室に残って試験勉強した帰り、路地裏で、なずなはすぐると口論になった。すぐるはなずなの首を絞めて、なずなはカッターナイフを構えた。


 ゴミだ。クズだ。

 自分と同様、この男の命も価値はなかった。


 見ているだけで嫌悪感を催す肉体をくるんだブレザーに、切りかかる。思春期男子の浅ましい筋肉に刃を沈めれば、むしろ褒められるべきではないか?



 なずなの身体の内側が、怒りで煮え滾っていた。熱くて痛くて息苦しかった。自分やすぐるを生かしてきた世界を恨んだ。


 …──もっと壊せ。恨め。憎め。壊せ。コワセ。ノロワレロ。…………


 自分自身が消えていく。

 殺人犯は、こうして自我を失えるのか。そして、思いとどまるようなしくじりをしなくて済むのか。


 体外に弾き飛ばされていたなずなの自我が、そこから自身を傍観した時、唐突な後悔が押し寄せてきた。

 すぐるを切り裂く直前だった。


 間に合った。思いとどまれた。



 怒りは嘘のように消えていた。世界の全てが愛おしい。なずなをすぐるに引き合わせた世界。落ちこぼれのなずなを、菫子という最高の友人に導いた世界。

 安らぎや優しさに満たされたなずなの目の前に、少女の抜け殻が転がっていた。

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