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副業は魔法少女ッ!

第7章 私だけが独りだった



「え……」


 抜け殻は呼吸していなかった。白い肌は異様に白く、体温を失くしているのを暗に物語っていた。外傷はない。高校の制服姿の彼女、菫子は、呼びかければあっけらかんと目を開きそうに、いつもの彼女だ。


「菫子ちゃん!」


 彼女が息絶える経緯はなかった。ここにいたのは、なずなとすぐるだ。彼女は居合わせていなかった。

 なずなは菫子を抱きかかえて揺さぶった。すぐるも一緒に呼びかけている。そうしながらスマートフォンを操作していた彼も、救急車を頼みの綱にしていたはずだ、諦められない。

 目蓋の裏に見えたビジョンなど、錯覚だ。鼓膜の奥に聞こえた声など、なずなだけの幻聴だ。


 菫子から魔力が抜けていく。その魔力が、魔法少女服の色に似た石の形をとっていく。彼女の生命が結晶化していくように。


 あらゆる感情の混濁した声が、なずなの胸に落ちてくる。


 …──私のことは忘れて。最後に助けられたのがなずなちゃん達で、向こうに持っていくにはいい思い出。

 …──すぐるを見捨てないでやって。あまりにもわがまま言ったら、叱っていいから。



 それきり声は聞こえなくなった。



 残ったのは、なずなの指に青く光る指輪と、よく知らない少女の死骸。

 何者かに裂かれたようなブレザーを着たすぐるが、すぐ近くで泣いていた。

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