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副業は魔法少女ッ!

第8章 正義の味方のいないご時世



「東雲さん……」


 なずなとなつるが、今日からは友人と呼ぶことを宣言した彼女に近付く。すぐるも、仏頂面を貼りつけたまま、なずなに従う。

 椿紗は意気消沈していた。死人のような顔をなずな達に向けた彼女は、それでもルシナメローゼをきっかけに、新たな人間関係を築いた。それがなければ、今頃、彼女は親友と共にあすこに残っていたかも知れない。親友の魂胆に勘づきながらも、躍起になってスピリットジュエリーを集めていた彼女は、怨嗟を封じた石の力も、少女の意識の維持に全て注いでいた。


「心配しないで。私がここに戻れた結果が、彼女の意思だったんだから」

「そうなんですか?」

「彼女は巫女よ。それだけは、本当。しばらく休みたいと、最後に私に伝えてきた。私と出逢うと酷い終わり方になるジンクスを、一旦、やめにしたいんだって」

「…………」


 椿紗の言葉つきは、親友との軽口を口外しているだけのように軽い。

 夢の島国で、仮初めの理想郷でも、ルシナメローゼは存在していた。科学では証明出来ない奇跡も、あすこではあり得ていた。なずなが菫子に再会して、ゆいかが彼女を感じたのも、奇跡の一つだ。

 椿紗の人生が続いていく一方で、この広い世界のどこかで、あの少女も始まりを迎えるかも知れない。今度こそ彼女が世界に愛されれば良いと願う。そして、いつか椿紗と再び巡り逢えればとも。

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